「いくつか、お尋ねしたいことがございます」
件(くだん)の神殿での話し合いが行われた翌日、いつものように執務室でべヌスを手伝っていたノクトは、その手を止めておもむろに口を開いた。 生真面目なノクトが執務の手を止めるなど、余程のことなのだろう。 そう理解したベヌスもペンを置き、ノクトの方へ向き直る。 「どうした、改まって」 そう促されてわずかに目礼すると、大きく息をついてからノクトは切り出した。 「兄上は常々、自分に神格を譲るとおっしゃっていますが、闇神と闇の王、どちらが上に立つ存在なのでしょうか? 」 ノクトの言葉に、ベヌスはふむ、とうなずく。 卓の上に頬杖をつき思案することしばし、結論を導き出して、ベヌスは答える。 「上に立つと言うよりは、並び立つ存在と思っている。つまり、実務的な支柱が闇の王で、精神的な支柱が闇神だ。ようするにどちらが上に立つ、ということはない」 それがどうかしたのか、と話を振られ、ノクトはわずかに目を伏せる が、ややあって、今度はベヌスの目を真っ直ぐに見つめる。 「では、もう一つ。兄上は神格を移行する方法をご存知なのですか? 」 思いもよらぬ問いかけに、ベヌスは思わず数度瞬く。 なかなか返答が無いのをどう受け取ったのか、ノクトは淡々とした口調で更に続ける。 「よもや、先の即位式のように内外に宣言を行い、儀式を行えば良いと思っているのではありませんか?」 図星を付かれたのだろうか、ベヌスはその黒玻璃のような瞳を、僅かに泳がせた。 その様子を認めたノクトは、やれやれとでも言うように深々と吐息をもらす。 「この世の根幹を司るという闇の神格が、そう簡単に受け渡しできるはずが無いと、自分は思います。現に調和神アルタミラ殿は、何か思うところがあり兄上にそれを託した。そう思うのですが」 ノクトの言葉に、ベヌスは納得したようにうなずき、そして困ったように頭をかき回す。 「……仕方ある